【コラム】清く正しい「おたく」アピール考

 近年「おたく」という言葉はそれまでのレッテルではなく、個性の一種として一般人に受け入れられつつある。それは戦後サブカルチャーが社会の発展と共に一般層へと浸透していき、今では世界へと進出しているからである。そして自治体や行政までもがサブカルチャーを積極的に利用する事で一般認知が広がるといった循環が続いている。

 そもそも「おたく」とは評論家の中森明夫がコミックマーケットに集まった人々を自身のコラム内で批判する際に使用した言葉が発祥と言われている。同好の者ではあるが、友人ほど親しくなく他人ほど見ず知らずではない微妙な距離感が故にお互いを呼ぶ際に「お宅は・・・」という二人称を用いていた事から中森は名付けていた。この距離感こそおたくの本質なのではないだろうか。
おたくは豊富な知識と偏愛で妄執的な価値観を持つ人々が多い。故に社会から孤立しやすく、必然的にコミュニケーション不足となる。中には孤独に耐えきれず、自らサークルを立ち上げ、同好の者がそこに集まり独特な社会が形成されると独自文化やルールが生まれていく。その代表例が今や世界最大の同人誌即売会となったコミックマーケットであり、その片鱗は現在でも随所で伺える。さらに時代を遡ると、1962年から始まった日本SF大会もそうだろう。かつて漫画家吾妻ひでおがSF大会へ訪れた際のルポ漫画で粘度の高い熱気を帯びたSFファンが登場し、その生態を見事に表現した。

 さて、本題に入る前にもう一つおたくの習性を紹介しよう。例えば貴方が漫画が好きで、漫画の話を同好の者と話そうとするとしよう。貴方は普段から週刊少年ジャンプを愛読していて、発売されたばかりのジャンプについて語ろうとする。しかし、相手がジャンプを全く読まず、自己批判的で内向的な作品やガロ系作品について語ったとしたら、果たして会話は成立するだろうか?往々にして成り立つことはなく、お互い一方的に話すか、気を使って聞きたくも無い作品の話を聞くことになるだろう。
 「漫画」一つとってもそのジャンルは幅広く、そして細分化されており、特化すればするほど必然的にそのジャンルを嗜む人口は減少するのだ。こういったことは読者であれば一度や二度は経験したことだろう。したことが無いという人はそれがとても幸せな立場である事を自覚していただきたい。


 さて、会話をするにあたって目の前にいる人物(おたく)が何が好きなのか、どれくらい好きなのかを推し量る必要が出てくる訳だ。これは一般的なコミュニケーションよりも神経を使い、はるかに多量のカロリーを消費する。そこで相手から飛び込ませる環境づくりが重要となる。では環境をどう作っていくのか。私が提唱するのは「1ポイントアピール」である。1ポイントであれば、関心の薄い大衆にはスルーされるものの、めざといおたくは決して見逃すことはないからだ。また1ポイントを選ぶ際にその人の感性、知識、熱量、思想が現れやすく容易に人と成りを推測できる事だろう。では具体的にどういったものが良いのか。第一に「Tシャツ」だ。Tシャツは着回しがしやすく手軽であると同時にグッズとしての定番商品であることからその入手性やバリエーションの豊富さは重要なポイントになる。第二に小物である。ストラップやキーホルダーなどの普段身につけるものから、クリアファイルやマグカップなど実用性に富んだものなど、多くの小物グッズが展開されている点は注目する所である。特にマグカップであれば実用性とアピールを両立することが可能で、デスクの上に置いてあっても不自然ではないし、飲む動作をする度にアピールとなる。しかし、ここで注意を払わなければならないのは「Tシャツやマグカップであればなんでも良い」という訳ではないということだ。露骨な性的表現を含むデザインはもってのほかである。そもそも「美少女」は性的表現を含んだキャラクターであることを再認識する事を忘れてはならない。さらに安易なデザインは逆に自分の「浅さ」をアピールする事になってしまい、会話を始める前から上下関係が決まってしまう恐れもある。こういったアピールは分かりにくければ分かりにくいほど「玄人」ぽく見え、一目置かれる様になることを肝に銘じておいてほしい。私の感覚としては劇中に登場するロゴをあしらったグッズが最低ラインである。少し高度なアピールとしてはキャラクターが愛用する一般商品を複合的かつ日常的に使用するのも良いだろう。連想ゲームの様にそれを見抜いた相手は手練れである。

 また高度な手段であるが、グッズ以外にもアピールする方法がある。それは日常会話の中に作中に登場するセリフを忍ばせることだ。私がよく使う台詞はつげ義春「ねじ式」で登場する「テッテ的」である。普段使いに良く、簡単に会話に忍ばせることができる良い塩梅のセリフだ。こういった会話に忍ばせる方法は満を持してブッこむのではなく、あくまでさりげなく入れることが重要なテクニックとなる。一歩間違えたら大事故となってしまい、貴方は職場や学校で孤立することだろう。

 今まであげてきた方法に以外にもアピールの方法は星の数だけある。自分に合ったアピールをして世間から白い目で見られる事なく充実したおたくライフを楽しんで行ってほしい。 

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