・科学と神秘
ここ100年、人類のIQは上昇傾向にあるという事を耳にしたことがある。近代教育の普及と科学技術の発達による情報取得の容易さが起因するのかも知れないが、そんな現代でも心身や神秘的な分野において、たとえ非科学的かつ非論理的であっても信じてしまうという人が大多数を占めている。逆に言えば、科学技術が発達した現代だからこそ、そういった神秘性を人は求めているのかも知れない。
人間ほど合理的なようで曖昧模糊な生物は居ないだろう。たとえこれからさらに科学技術が発達していても人間が生物という枠組みから外れない限りは生物が持つ複雑系の呪縛から逃れることは出来ないし、その「ゆらぎ」こそが人間を人間としてたらしめているのだ。
・科学とオカルトとの邂逅
人間が今日まで繁栄を続けているのには「科学技術」の発展が大きく寄与している。アルキメデスの時代から存在した蒸気機関。水と火を使った蒸気機関は単純な物理現象でありながらも、連続的かつ大きな力を生み出し18世紀には人間の生活圏を大きく押し広げた。また電磁気の発見は生活はおろか娯楽や情報の伝達など多岐にわたり、現代では無くてはならない重要なエネルギーとなっている。かつて20世紀のSF作家「アーサー・C・クラーク」は「クラークの3原則」と呼ばれる提言を残した。そのうちの1節に「高度に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」というものだ。神秘的な現象は科学の前に瓦解され、発達した科学は神秘そのものになるという皮肉だ。
科学至上主義である今日では、科学的に説明できない現象を「オカルト」として揶揄したり嫌悪する傾向にある。しかし、ホラー映画やそういた話を好き好む人々も多いし、宗教も心の拠り所として非常に重要なものである。近年では科学とオカルトが邂逅する場合がよく見られ、以前紹介したホメオパシーの科学的根拠を訴えたベン・ベニストの「水の事件」を始め、代替医療と科学というのが融合しやすい印象だ。ここで代替医療であれ心霊現象であれ、実際に自らが実体験を元に、存在を信じているというのが重要なポイントである。
・感覚の曖昧さ
人間には五感がある。視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚といった具合だ。特に視覚は五感のうち7割も締めているほど重要な感覚であるが脳が勝手に補完したり、その時の心理的・身体的な調子に大きく左右されるなど存外、曖昧な器官なのである。
だからこそ人間には個性があるとも言えるのだが、そういった曖昧さのスキを突いて、怪しい健康食品や代替医療などのビジネスが横行しているのも事実である。
こういった人間の曖昧な感覚に訴える商品というのは胡散臭いものが多いもので、私の趣味の一つである「オーディオ機器」においてはその手の商品が多数存在する。
・オーディオとは
さて、今回は久しぶりにオーディオの話だ。
人間の文化と音楽は切っても切れない関係であり、人生においてあらゆる場面で音楽を耳にしている。音楽を聴く形態も日に日に変化しており、最近はサブスクリプションによる配信サービスが隆盛を極める中、レコードという全時代のメディアによる音楽体験が若者の間で人気になっている。
オーディオの歴史を紐解けば19世紀のトーマス・エジソンまで遡る。エジソンが発明した蝋管式の蓄音機がオーディオの歴史の始まりとされている。その後、記録方式は円盤方式へ移り、SP盤の登場、LP・ドーナツ盤、CDと変遷してきた。これらの記録メディアの再生機器も掘られた溝をトレースする針と、その振動を増幅する振動板やホーンから、振動を電気信号に変換・増幅するアンプとアンプで増幅された信号を音として出力するスピーカーという現代の方式へと移り変わってきた。
こうしたオーディオの発展には「良い音で聞きたい」という技術者とユーザーの想いが大きく寄与している。その想いが飽和した現代、オーディオはオカルトと邂逅して独自の発展を続けている。
・ピュアオーディオという魔境
ピュアオーディオとはメディアに記録(録音)された音を忠実に再生する事を追求している機器や人物たちの事を指す。
一般的な感覚では、どのオーディオ機器も忠実に再生できているように思えるが、実はメーカーにより音に味付け(チューニング)がされていたり、”認識できない”ノイズや振動(音)の影響を受けて、完全なる純粋(ピュア)な音は再生されていない。
ピュアオーディオにおいて重要なポイントは「ノイズの抑制」と「振動の抑制」である。今回はピュアオーディオの中でも特に極致とも言うべき事例をいくつか紹介していきたい。
まずは「ノイズの抑制」である。ノイズは電源から発生する場合が多い。例えばオーディオ機器と同じ電源に接続されている家電(電子レンジなど)を駆動させると、家電から発生したノイズがコンセント経由でアンプに影響を与えてしまう。これを嫌ってノイズフィルターが付いた電源タップを使用したりするマニアもいるのだが、家に入ってくる電源から見直す酔狂なマニアもいるのだ。それが「マイ電柱」と「燃料電池」である。
そもそもよく路上で見かける電柱は6000Vの電圧で送電されている。各家庭に電気を配電するには6000Vから100Vないしは200Vに降圧しなければならない。この電圧を下げる役割をするのが「トランス」だ。電柱の上部に取り付けられている円筒状の機器がトランスである。マイ電柱の思想は1機のトランスで複数の家庭に降圧した電気を供給するため、トランスを通じて近隣の家庭で使用した家電のノイズが入ってしまうという考え方だ。1機当たりにかかる費用は約120万円ほどで専門業者もあり、既に60機以上の設置実績があるというから驚きだ。ちなみにマイ電柱にすることで、低音・中音域のSN比がよくなるそうだ。
そしてマイ電柱に飽き足らず、電気そのものから拘る人も出てきている。マイ電柱の施工をする出水電器の社長が、燃料電池とマイ電柱の電源による違いを試聴会を開き聴き比べたそうだ。真空管アンプの時代に真空管を替えて比較する「球ころがし」という楽しみ方があったが、電源を比較するというのは度肝を抜かれた。最近は太陽電池や(緊急時に)電気自動車を電源する家庭もあるようなので、将来こういうこだわり方も一般的になるのかもしれないが、果たして音質にどこまで影響があるのだろうか。
続いて「振動の抑制」である。オーディオにおいて振動は大敵だ。レコードやCDに刻まれた細かい凹凸をピックアップするためには少しの振動も影響を受けてしまうし、スピーカー自体が振動板を振動させて音を発生させているので、振動をコントロールしなければピュアなサウンドを得ることは叶わないだろう。振動の抑制として一般的な方法はインシュレータをラックと機器の間に挟むという方法だ。様々な材質があるが、一般的には比重が重く振動の抑制効果のある真鍮製のものが多い。振動の塊であるスピーカーにインシュレータを挟むと体感できるほど音質が変わる事がある。それでは今回はローゼンクランツ製のインシュレータを紹介しよう。ローゼンクランツはカイザーオーディオという広島のオーディオアクセサリメーカで、貝崎社長が独自の理論で様々なアクセサリを開発・販売している。JAZZやオーディオ評論家であった寺島靖国氏が心酔したインシュレータが「6穴」と呼ばれるインシュレータである。
ローゼンクランツ独自の波動コントロールによって、緻密に調整されたインシュレータは唯一無二の音を出すそうだ。波動コントロールは最後の調整に使用される手法で、インシュレータの溝を1/100mmずつ異なるものを準備し、社長自ら聴き比べを行い音の良い順番で点を打ち、グラフ化するとなんと波形が現れるのだ。貝崎社長の長年の経験からも音に関するものは全て波動からなっているとの事だ。
さらにローゼンクランツは「105」という数字にとてもこだわりを持っている。105という数字…。目ざとい読者諸君はもうお気づきかもしれないが、そう水の分子における酸素原子と水素原子の結合角(実は104.5度なのだが…)である。ある日、貝崎社長はインシュレータの90度角のインシュレータを手に押し付けた際に、激しい痛みに襲われた。この角度を浅くしていくと105度において手に押し付けてもなんとか耐えられる痛みになったとのことだ。さらに140度まで角度を浅くすると痛みは感じなくなるのだが、逆に頼りなさを感じてしまったようだ。105度のインシュレータは触感だけでなく、見た目も安定感やキリッとしており、頼りがいを感じたのだった。それ以来、105という数字に魅了された社長は、先述した水の分子構造における酸素原子と水素原子の結合角が105度という事に気づいてしまった。人体にとって最も重要な物質である水。その水とインシュレータの角度には密接な関係があったのだ。さらに、インシュレータを作成するときに使用するハンダで、すずと鉛の最適な混合率が52.5%というのを突き止めた社長は、再び衝撃を受けるのだった。この混合率52.5%は105の1/2の数値であるのだ。偶然にしてもあまりにも出来すぎているが、105という数字に取り憑かれてしまい、ローゼンクランツ製のインシュレータはすべて105度の角度で製作されている。1個あたりの値段が2200円から35000円と比較的リーズナブルなので、105度の波動を体感したい人は是非に購入をおすすめしたい。
・おわりに
コロナワクチン陰謀論やホメオパシー、水からの伝言といった所謂「水もの・波動もの」に新たな仲間が加わった。何故、これほどまでに水と波動は親和性が良いのか、新たな疑問が浮かんできてしまった。これからも研究対象として観察を続けていきたい。