生命の誕生(妊娠)とはまさに生命の神秘である。
今日、子供が生まれるメカニズムは科学的に証明されているものの、実感としては神秘そのものだろう。一般的に動物が子供を宿すためにはメスとオスが交接する必要があるが、一部の爬虫類や魚類、両生類などでは単為生殖をする種の存在も確認されている。しかしながら、動物の霊長たる我々人間において単為生殖するという科学的な証明はされていない。
本書では単為生殖に関する歴史や背景、メカニズムなどについて様々な証言や論文を引用して説明している。全部で4章で構成されている。
第1章:20世紀の処女懐胎
第2章:封印された歴史
第3章:処女懐胎のメカニズム
第4章:遺伝子は思い出す
今回は特に興味を惹かれた部分について紹介していこう。
・処女懐胎の歴史
先ずは処女懐胎の歴史から紐解いていく。本書では有史以前、特に母系社会だった頃は処女懐胎は当然のように存在した現象であり、現代の父系社会への移行に伴って処女懐胎の能力を封じ込められるようなルールが改正されてしまったと主張している。元来、単為生殖は女性が持つ能力との事だ。何故、男どもは女性の単為生殖能力を封じ込めてしまったのか。
それは単純に、女性のみで生殖できてしまうと男の存在意義が無くなってしまうからだ。種の保存という生物として最も重要な活動に必要ないのでは存在する理由も無くなってしまう。きっと近代社会の構造は男たちが自らの存在を守るために必死になった結果なのだろう。
また本書ではその根拠として幼児婚や未成熟な子供を対象にした婚前交渉の文化を取り上げ、こういった慣習は性器の破壊や精神的な暴力によって女性の単為生殖の能力を忘却の彼方へと追いやったとの事だ。また、割礼によるクリトリスの切除も能力を封じ込めるの為の行為であると述べている。
・クリトリスの振動と単為生殖
読者諸君はクリトリスと振動の関係についてご存じだろうか。
著者であるマリアンネの推測では、クリトリスの振動能力が単為生殖と深い関わりがあると主張している。
クリトリスの振動によるエネルゲティークな作用がからだの内部に向かうと、電磁的な刺激が高まり、すでに成熟している卵細胞の細胞分割プロセスが引き起こされるのではないでしょうか。
P173 第4章「遺伝子の記憶」より
事実、現在でもある部族では割礼として女性のクリトリスの切除を行っている。これはクリトリスを切除することで振動による電磁的な刺激を阻害し、単為生殖させないために行われている非人道的な行為なのだ。
マリアンネはさらにレイモンド・バーナードの文章を引用して、クリトリスと単為生殖の根拠を示す。
南米ペルーの首都リマに住む、いわゆる「良家の」若い女性が、メイドに若い混血女性をつかっていました。『彼女はこのメイドのクリトリスが大きく発達していて完全に男性の性器の代用になる事を発見した。(中略)若い女性はそのあとでメイドとレズビアンの関係を持つようになり(中略)そのうち妊娠してしまいました。
P175 第4章「遺伝子の記憶」より
要はクリトリスの切除は女性同士のセックスをさせず、単為生殖を防止するために行われているとの事だ。発達したクリトリスを使って女性同士でセックスし、妊娠までしてしまうというのは、まるでふたなり系のエロ同人誌によく見かけるような設定が実際に起きていたとは、まさに現実とは小説より奇なりというやつだろう。しかし冷静に考えてみると、実はメイドは男で発達したクリトリスはただの男性器だったというのがオチなのだろうが、それをいうのは野暮ってものだろう。
・エタノールと精液
一般的な知識として生命が誕生するためには睾丸で作られた精液が卵子に受精する必要がある。しかし、精液を用いずとも卵細胞を人工的に刺激することで卵細胞を活性化することを動物実験で確認出来たのだ。その一例を挙げよう。
・極細の針を使って卵をチクチク刺す。
・卵を機械的に振動させる。
・極端な冷たさ、または高温で卵にショックを与える。
・電気的刺激
・光線の刺激(紫外線)
・男性の精液から取り出した物質
・アルカリ溶液
・カルシウム
・エタノール
・酵素
・雄牛の血
なんだかこれだけ多くの例を挙げられると風が吹いただけで活性化しそうな気がするが、それは胸に閉まっておこう。マリアンネはこの中でも「エタノール」について語っている。「配偶子研究誌」の中でT・ナガイという人物が牝牛の卵細胞の受精にエタノールを用いた所、卵細胞の活性化を確認したというのだ。精液とエタノールを比較した結果、精液と同等の活性化能力があるという実験結果があったのだ。
つまり、精液でなくお酒を膣内に投与すれば受精する可能性があるという事だ。避妊のためにセックス後に膣内をコーラで洗うという都市伝説があったが、もしコークハイだったら逆に活性化してしまっていたのかもしれない。もしかしたらエタノールによる卵細胞の活性化という話が転じてコーラで避妊という都市伝説が生まれた可能性も否めない。読者諸君はどう考えるだろうか。
・単為生殖と百合ブーム
ここ数年、BLブームを超えて百合ブームというのはオタクカルチャー界隈で賑わっている。2005年に百合漫画専門誌「百合姫」が創刊し、オタク系の書店では百合漫画専用の棚が設けられるほどだ。
熱心な百合好きの間では常に議論の対象になるのが「百合の間に挟まるのは良しか否か」問題である。「挟まる」というのは少女たちの間に男が存在、または干渉する事を指す。百合を好む男性は、彼女らの世界に入りたいという気持ちと干渉したら世界観、いわゆる「百合」が崩壊してしまうというジレンマを常に抱いているのだ。
これは百合が創作物であるからこそ、神の視点として観察できるが故のジレンマなのだが、単為生殖が本当に起こりえるならば、現実として目にすることになるという事だ。果たしてそうなったとき、百合を嗜む彼らはどういう行動をとるのか。創作物を現実が追い越した時、どんな事が起きるのか楽しみである。