【書籍紹介 #15】越智啓太「美人の正体」

みなさんこんにちは。
店主のさしみです。

先日、何年かぶりにコミティアのサークル申し込みをさせていただきました。当選かどうかは現時点では判明していませんが、結果が分かり次第、ご報告させていただきたく思います。

とはいえ、当選しても何を出そうかまったくアイディアが無い状態で困っています。とりあえず「マンガヨミアルキ 東海編」は持っていく予定ですので、まだお持ちで無い方は会場で直接お買い求めください。

さて、本題に入りましょう。
皆さんは美人やハンサムに興味はあるでしょうか?それとも、美人やハンサムになるために色々と努力をされている方もいらっしゃるかと思います。いやはや、そんな努力なんてとうに諦めてしまって関心がないという方もいらっしゃるかと思いますが、紹介させていただく本は「美人(ハンサム)」について心理学の見地から語る本となります。

挑戦的な帯文句…。

本作の著者、越智啓太は警視庁科学研究所で犯罪心理学を用いたプロファイリングをしていた経歴を持つ方で、現在は法政大学で心理学の教鞭も持つ教授先生です。本作は一見すると恋愛How to本のような軽薄さを感じますが、国内外、様々な研究や論文を引用して「美人(ハンサム)」について迫っています。

本作は全部で10章から構成されています。

第1章:恋愛において外見はどのくらい重要なのか
第2章:美人は性格が良いのか悪いのか
第3章:美人は頭が良いのか悪いのか
第4章:美人・ハンサムとは何か
第5章:スーパー平均顔よりも美人な顔とは
第6章:魅力的な体とは何か
第7章:魅力がある男性とは何か
第8章:マッチョで男らしい男がもてる条件
第9章:なぜ恋人同士は似ているのか
第10章:美人・ハンサムじゃなくても大丈夫

それぞれの章で美人(ハンサム)に対する一般的な認知を統計を用いた心理学的な研究成果から語っています。その中でも特に興味を引いた第4章「美人・ハンサムとは何か」と第5章「スーパー平均顔よりも美人な顔とは」についてかいつまんで紹介させていただきたいと思います。

・平均顔
1879年、フランシス・ゴールドンは写真のネガを重ね合わせて合成写真を作成する技術を使い、犯罪者の顔写真を重ねて犯罪傾向を示す人相を導き出そうとしていました。しかし重ね合わせていくとどんどんハンサムな顔が浮かび上がってきたのです。この事からゴールドンは人間の顔を平均化するとハンサム(美人)なっていくという仮説を打ち出します。何故、平均化することで魅力的な顔に近づいていくのか。それは「単純接触効果」によるものというのが一つ、そして「平均から逸脱することがなんらかの突然変異を持っている」という進化論的な仮説でした。

ラングロワとログマンは1990年に「魅力的な顔は点に平均的な顔である」というタイトルの論文を発表しました。この論文では男女96人ずつの顔写真をコンピュータで処理をして作成した平均顔を用いています。平均顔は2、4、8、16、32枚の写真を平均したものを用意し、その写真を魅力度を1~5段階(魅力的ではない~とても魅力的である)で評定させたのです。すると見事に重ね合わせた枚数が増える程、魅力度も増加する傾向を示しました。

たしかに重ね合わせると美人(ハンサム)化するけど特徴もなくなる。

また、面白い傾向を示したのが2002年にローズが個人の顔と2、5、10、20、30人の日本人の平均顔で魅力度を評定した所、同様の傾向を示しただけではなく、30人近くになると魅力度が3.55(5段階中)でピークをみせているところでしょう。これはまた後ほど、第5章「スーパー平均顔よりも美人な顔とは」と一緒にご紹介いたします。

・対称性顔
また、ローズは平均化以外にも顔の対称性が魅力度の増加に寄与するという事を発見します。2007年にはリトルがタンザニアの狩猟民族で実験を行った結果、同様の傾向を示したことから文化による違いによるものではないという結論に至っています。

男女ともに顔の対称性と魅力度が比例していく

何故、対称性と魅力度に相関があるのか。それは対称性というのは単純で認知しやすく、対称性の少ない顔というのは健康面、妊娠の可能性、免疫機能などの面で良い傾向を示さないという実証結果から、進化論的な意味合いがあると仮説されるのです。

・お肌すべすべ論
平均顔まではいかないものの、肌の状態も魅力度に寄与する結果が出ています。これは女性ホルモンや健康のシグナルを認知するためだと言われています。実際、寝不足な時や体調不良の際には肌があれたりしますし、化粧で肌をきめ細かく見せたりすることからも、そういった傾向は伺えます。

さて、平均顔と対称顔という2つの仮説が出てきましたが、対象顔は平均化することによって得られる事から平均顔に内包される原因ともいえるでしょう。

・スーパー平均顔を超える美人
第4章では顔を平均化することで魅力度が増すという実験結果を紹介しました。それでは、もっと大量の人間の顔を平均化していけば最高の美人「スーパー平均顔」が生まれるのか。それは先述した通りそうはいかないのです。先程、日本人を対象にした平均度と魅力度の実験から、30人あたりで魅力度がサチり初めていることが伺えます。30人以上のデータがないので予想でしかありませんが、これ以上の平均化は意味はないでしょう。作成された写真を見てみても確かに端正な顔つきではありますが、一般的に美人やハンサムといわれる人たちには一歩劣るような感じがあります。
では、スーパー平均顔を超える美人というのはどういうものなのか。それについて触れているのが第5章になるのです。

個人的に一番印象的なのが魅力度がサチること。

・幼型化
スーパー平均顔を超えるのに寄与するのが「幼型化」です。
様々な研究者によって美人コンテストやハリウッド女優の平均顔が作成されてきました。どれも一般人から作成した平均顔よりも美しくなり、両者を比較すると、①目の上下幅が大きい、②目の左右幅が大きい、③目の距離が長い、⑤瞳孔が大きい、⑥顎の長さが短い、⑦鼻の面積が小さい、⑧ほおの幅が狭い、という特徴が確認できたのです。この特徴こそが幼型化なのです。人間の顔は成長とともに下方が伸びていきます、甘える時に上目遣いになるのは額を強調し、顎を小さくすることで幼型化することによるものなのです。この傾向は日本の美少女キャラクター描写にも如実に現れていたりします。

女性において年齢と共に魅力度が減少する傾向が印象的

しかしながら、カニンガムの研究では「口が大きいほど美人に見える」傾向があるという研究結果が出ています。この傾向はスフォルツの研究でも同様の結果を得られており、幼型化とは逆の傾向を示しています。この事により口の大きさと幼型化とは独立した要因があるのではないかと考えられています。口の大きさが魅力に寄与する理由としては単純に「笑顔による魅力増進効果」によるものと考えられ、やっぱり愛嬌(笑顔)が一番ということです。

スマイルるみちゃん!

さて、幼型化の話に戻しましょう。それでは何故、幼型化が平均顔を超える魅力につながるのか。本書では生物学的な見地から推測しております。

幼型化=若い・幼いという事ですが、単純に生物学的な観点から言えば、若ければ若いほど生涯、子孫を残す数が多くなるという事になると考えられるからだそうです。医療が発達した現在においても高齢出産は、適齢期に比べてどうしてもリスクは高くなってしまいます。ですので、オスにとって「子孫を残す」という生物の根源とも言える本能的行動から、若いメス=幼型化した顔つきの相手に対して魅力的に感じるようになっているという事です。

さらにもう一つの理由として「オスにとってのリスク回避によるもの」という仮説があります。これは「若いメスであるほど性交の経験数が少ない=自分の遺伝子を受け継いだ子供が生まれる確立が高い」という考え方です。オスにとって子供を育てるという事は非常にリソースをとられるため、別のオスの遺伝子を受け継ぐ子供を育てるという事のリスクを回避するためという考え方ですが、これはちょっと無理やりというか、腑に落ちない感じもあります笑。

日本では「結婚して200日後、あるいは離婚後300日以内に生まれた子供は元夫の子供として認知される」という法律もありますし、近年ではDNA鑑定を利用して自分の子供かどうか確かめる人もいるらしいです。さらにアメリカではその「Maury Show」というテレビ番組が子供のDNA鑑定をして、本当の父親かどうかを発表するという番組があります。DNA鑑定で親子と認められなかった時の夫婦のリアクションはまるで人間の業を凝縮したようです笑。子供にとっては迷惑でしかありませんが…。

割とショックな映像ですのでご注意を

今回は4章と5章だけの紹介だけになりますが、顔だけではなくくびれや胸などのプロポーションに言及した章や理想的なカップルについての研究結果を示す章など、その他の章も非常に興味深い内容となっています。

私の所感として、美人(ハンサム)について進化論(生物学)的側面から論じていますが、人間なんだかんだ言って動物なんだなと思い知らされた感じがします。それは種の繁栄を目的とした本能であり、それを意識するとこの世の中はファッションや化粧品、ダイエット食品やジムなど、本能を刺激するビジネスというものに溢れているのものだと改めて認識することができますし、自分が「綺麗な女性だな」と感じていた無意識部分に焦点を当てることが出来て色々な意味で衝撃がありました。
そして、これを応用することで少しは希望を持つことが出来るかもしれません笑。

「Lookism(ルッキズム)」という言葉を耳にすることが徐々に多くなってきた昨今だからこそ読むべき一冊だと思います。

それでは今回はここまでです。
また次回をお楽しみお待ち下さい。

店主さしみ

おすすめの記事