皆さんこんにちは
店主のさしみです。
最近、クラシックカメラの修理をしていたのですが、素人がシャッターを分解してはいけませんね。
6時間格闘して未だに元に戻せていません(泣)
さらにさらに姿勢が悪かったようでここ数日は体がバキバキで体調不良です。
さて、今回は書籍紹介です。12冊目となる今回は、2000年代のネット上で作品としてもミームとしても話題になった山川純一「ウホッ‼いい男たち ~ヤマジュン パーフェクト~」の1,2巻の紹介をしていきます。
今回、この記事を書くにあたってヤマジュンの事を調査したのですが、本当に情報が少なく、現在存命なのかも判明しないという状態です。
とりあえず、インターネットやヤマジュンパーフェクトに書かれている情報を元に簡単にまとめると、山川純一は1982年にゲイ雑誌「薔薇族」にて作品が初掲載され、それから約6年間に40作品を超える作品を発表していきます。その間にけいせい出版から単行本が3冊出ており86年に「君にニャンニャン」、88年に「兄貴にドキドキ」、「ワクワクBOY」となっています。そして88年以降はぷっつりと作品は発表されず現在は消息不明となっています。
時代は下って、2000年代に入りインターネットの匿名掲示板「あやしいわーるど」で無断アップロードされると徐々に作品を再評価する動きがみられ、「ふたばちゃんねる」や「2ちゃんねる」とミーム化していきます。
03年になると復刊ドットコムより単行本未収録を含めた「ウホッ‼いい男たち~ヤマジュン パーフェクト」を1000部限定で復刊するものの、人気のため重版がかかる事になります。
私が所有している本は09年で6刷りです。定価4800円という高額ながら重版がかかるということはそれだけ需要があったということですね。
07年になると、薔薇族の編集長「伊藤文學」の自宅から未発表の作品が4つ発見され、電子コミックとして、09年に書籍として発売されます。
私がヤマジュン作品に初めて触れたのは「ニコニコ動画」の「くそみそテクニック」のアフレコでした。独特なセリフまわしが特徴で、今思えば当時のゲイカルチャーへの嘲笑的な要素も多く含んだものだったと思います。
作者、ヤマジュンの人となりについては伊藤文學が語っていますが、自宅の住所や連絡先なども不明で、「山川純一」という名前も伊藤文學が付けたペンネームだそうです。そして印象的だったのが、「薔薇族」の編集者からヤマジュン作品は不評だったとう事です。
個人的に「エロ漫画」としてみるとヤマジュンの作品は少し違和感を抱きます。私は同性愛の性的趣向はない(=ノンケ)なのですが、エロというものはどんなものであれ、根幹はつながっていると考えています。
そういう目線で読んでもヤマジュンの作品からエロの匂いがしないというか、エロが作品の軸足になっていない印象を得ました。あくまでゲイやエロというのは作品のイチ舞台装置であり、本質は別の所にあるのではないでしょうか。
復刊した単行本の様に長きにわたって愛されてきたのは単純にエロや印象的なセリフ回しではありません。それはずばり物語性が突出しているからなのです。
それでは 「ウホッ‼いい男たち~ヤマジュン パーフェクト」 より、さしみがお気に入りの作品をいくつか紹介していきましょう。
「ウホッ‼いい男たち~ヤマジュン パーフェクト」
第2部 「兄貴にドキドキ」より「男狩り」
とある町で連続強姦殺人事件が発生。被害者は全員肛門を破かれ凄惨な姿で発見された。その事件を追う若き刑事、日高雄介は会社員の兄、良司と二人暮らしをしていた。兄には弟には言えない秘密があったのだった。
ある日、良司は会社で人事異動を命ぜられる。上司の口からは虫のいい言葉がペラペラと吐き出されるが、要は北海道の支店へ左遷されることになったのだ。自暴自棄になり、酒を煽って帰宅するも弟はまだ帰宅せず部屋には誰もいなかった。
するとおもむろに良司は隠していた箱から卑猥なレザージャケットとモヒカンのかつらを取り出し、身に着けていくのだった。するとみるみるうちに股間が大きく盛り上がってくる。良司の心の底に隠された欲望がどんどんと表面化していくのだった。そう、連続強姦殺人魔は良司そのものだったのだ。
北海道への転勤が決まり、今夜が最後と覚悟を決めて公園へと向かう良司。
すると目の前のベンチのカップルが目に入った。今夜の獲物に狙いを定め、女性を気絶させると男の肩へ手をかける。すると男は良司に向って勢いよく振り返り「お前を捕まえるための囮捜査だ!」と声を上げて肩を掴んだ。しかしそんな声は良司の耳には入らなかった。
そう、良司を捕まえた刑事とは実の弟、雄介だったのだ。
雄介の顔を見て全てを観念した良司は独白を始める。それは会社での自分の扱いやゲイに目覚めた事。しかし、その世界でも23センチもあるイチモツは羨ましがられはすれど、満足させてくれることも出来ず、孤独を感じていた事など…。
そんな兄の悩みを知らなかった雄介はただただ困惑していた。
しかし良司のペニスは収まる事がない。良司は最後の最後で弟を死なせるわけにもいかないと言い、自らの肛門にペニスを挿入するように求めた。
まだ現実を全て受け入れられない雄介だったが、そんな兄の要求に応じて肛門へ押し付ける。
兄は背徳感と快感の渦におぼれ、よがっていく。
肛門から湧き上がる快感は良司を絶頂へと導いていく。
そして肛門へザーメンを発射するように要求する良司。
「発射・・・・するよ‥‥」雄介がそう答えた瞬間。銃声が夜の公園をこだました。
1作品目から熱が入ってしまい、あらすじではなく物語全てを書いてしまいました。ヤマジュンの作品は細かいシナリオに穴はあるものの、物語全体を通すと非常に切なく心締め付ける作品が多々あります。
本作「男狩り」では、レザーにモヒカンというビジュアルで笑ってしまいがちですが、物語の本質は良司が抱える孤独感です。会社でのけ者にされ、ゲイという性的マイノリティを抱えながら生きていく孤独感。そしてゲイコミュニティでも馴染めず、弟にも相談が出来ないという良司はさぞかし辛かったでしょう。欲望を発散できず、いつしか犯罪に手を染めてしまう。弟はそんな兄の悩みを知らず、とても後悔したことでしょう。肛門へ挿入したのがペニスなのか拳銃なのかも判断できない程、狂ってしまった兄にしてやれる事は引き金を引く事だったのです。最後のコマで涙を流す雄介の表情が非常に印象的でした。
「ウホッ‼いい男たち~ヤマジュン パーフェクト」
第4部「単行本未収録作品集」より「実習生絶頂す」
生徒から人気の教育実習生神谷は指導教員の石井から一目置かれ信頼を寄せられていた。
とある日、体育の授業が終わり、石井と二人で体育用具を片付けていると、神谷は体育倉庫のドアを閉じ、石井に対して自らの秘密を打ち明けるのだった。
生徒の森下は授業で使った巻き尺を返しに体育倉庫へと向かった。体育倉庫の扉を開くと神谷と石井が獣のように裸で抱きあっているのを目撃してしまった。神谷は汗をかきながら舌をなめずり、なんとも恍惚な表情を浮かべている。巻き尺を落としてしまい、神谷は森下の存在に気付くとむしろ激しく腰をグラインドさせ、森下の目の前で絶頂を迎えるのだった。
森下は慌ててその場を後にするのだが、神谷に屋上へと呼び出されることになる。
二人っきりの屋上で「君もこういうのを見て興奮するタイプなんだろう」と突然脱ぎだす神谷。しかし森下もそんな神谷に動じず、自ら服を脱ぎ二人はセックスすることになるのだった。森下は自らを包み込む絶頂感の中、神谷に自分の首を絞めて殺してほしいと切望する。
一瞬、驚くものの森下の首を絞める神谷…。
…気が付くと森下は保健室のベッドに居た。
ベッドの横には事情を聴くために石井と保健室の先生がいる。
森下が語るには神谷は森下を屋上に呼び出すなり急にペニスを出し、森下をホモと決めつけてセックスを求めてきたのだった。それを拒否した森下の首を絞めたのだった。
そもそも森下が体育倉庫の扉を開けた時も、石井の姿はなく神谷が一人、裸でオナニーをしていたのだった。
そう、神谷は狂っていたのだ。
森下の話を聞いて、石井も神谷に言い寄られ、にべに断ってしまったという明かす。神谷は心身ともに健康な教師という像と、自らの性的趣向のジレンマによって狂ってしまったのだった。
すると廊下で騒ぎが起きている。
話を聞くと、神谷を病院へ連れて行こうとしたところ全裸になって暴れ出したのだった。
「邪魔しないでください!石井先生と森下君が俺とのセックスを待っているんだから!」
そう叫びながら捕まえようとする手を払い、石井の目の前に全裸の神谷が現れる。
しかし、神谷の頭は石井を認識することは出来なかった。目の前にいる石井を押しのけ、彼は石井と森下を求めて歩き出すのだった。
先ほど紹介した「男狩り」と少し毛色が似ていますね。こういう作品が好きな人にとっては本当にたまりません。「教育実習生+狂う」という図式は三大鬱ゲーでも知られる「さよならを教えて」と共通する事ですが、読み切りでこれほど心刺さる作品はそう無いと思います。最後のシーンの石井と神谷の距離とシリアスな展開なのに、神谷が全裸というギャップが笑っていいのか、心苦しい気持ちになればいいのか、感情の持って行き方に悩みます。
「ウホッ‼いい男たち~ヤマジュン パーフェクト」
第4部「単行本未収録作品集」より「地獄の使者たち」
第二次世界大戦末期。米軍の捕虜となってしまった日本兵、小早川大尉と嶋本。玉砕していった仲間を思いながら自らの運命を案じていた。
ある日、通訳係のバリクザーから日本軍が降伏したという知らせを受ける。現地の米軍は撤退するため、今夜その前夜祭を行うと語った。その催しの一つとしてゲイカップルであった小早川と嶋本がセックスをするようにバウアーズ大佐が命令したのだった。
日本軍の敗戦に加え、捕虜を生かしておくわけがない事を聞いた嶋本は米兵に少しでも被害を与えるため、隠しておいたダイナマイトを取り出した。しかし、ダイナマイトの導火線が短いため、逃げる猶予もなかったのだ。このまま殺されるのを待つだけになってしまうが、小早川はある考えがったのだった。
そして前夜祭。米兵の前に連れてこられた褌姿の二人。
小早川は煙草を要求し、最後の一本だからとバウアーズ大佐は許可を出す。そして火のついたタバコをおもむろに肛門へ挿入して二人はセックスを始めた。
ペッティング、フェラチオと徐々に激しく求めあっていく二人。それを眺めていたバウアーズ大佐や他の米兵も徐々に彼らの空気に飲まれて高ぶってきた。あまりに激しく情交する二人を前に息を飲む米兵だったが、バウアーズ大佐がバリクザーと激しくセックスを始めたのが口火となって、前夜祭は一気に男たちの熱気で包まれることになる。
そんな中、小早川の肛門に刺さっていた煙草の火が腸内に隠していたダイナマイトの導火線へと引火したことそっと嶋本に告げた。
「怖いか?」
「いいえ大尉どのと一緒なら」
「あの世でまた逢おう」
…。
色々とツッコミたい所はあるとは思いますが、この作品をツッコんでおしまいというのはもったいない。玉砕してしまった仲間たち、生き残って生き恥を晒してしまっている自分たち。そういった複雑な感情をとても感じます。小早川大尉は元々死ぬことを美徳に考えていないのですが、若い嶋本は死ねばもろともという勢いがあります。それを暖かい目で見てる小早川大尉はなんとも格好いいです。
小早川大尉は本当は死ぬべきではないのだが、殺されてしまう運命ならその運命を受け入れる。しかも愛する人と一緒に。という28歳とは思えない深い考えを持っている人物なのです。最後まで嶋本を気遣い、嶋本を小早川の愛と優しさを感じている表情はちょっと羨ましく思えてしまうのは私だけでしょうか。
最後のシーンではもはや乱交パーティと化した会場にこだまする導火線の音という印象的なシーンで締めくくられていて、なんとも猿の惑星2のコバルト爆弾のスイッチを押したあのラストシーンと重ねてしまいました。
といった感じでお気に入りの作品を3作品紹介させていただきました。ヤマジュン作品はワキが甘いのでツッコんでしまう箇所は多々あります。しかし、物語やキャラクターにも十分魅力がある事に気付いていただければ、ヤマジュン作品が未だに人気な理由が見えてくるかもしれません。
おまけ
最後におまけとしてヤマジュン作品のオススメな読み方をご紹介して〆ます。
ヤマジュンのキャラクターは悪い様に言えば描き分けがあまりできていません。特に単行本で一気に読もうとするとどのキャラクターも一緒に見えてきてしまいます。
そこでヤマジュンの作品もスターシステムを採用していると考えて読むと、作品の深みが増してくるのです。
例えば「一人のゲイポルノ男優が色々な企画ものポルノビデオに出演している」と考えてみたり。
是非、試してみてください笑。
それでは今回はこれまでとします。
次回をお楽しみお待ちください。
店主さしみ