皆さんこんにちは
店主のさしみです。
先日、復刊ドットコムから風忍「地上最強の男 竜」が発売されるという情報を耳にしたのですが、なんと価格が7920円(税込み)。すでに絶版とはいえ、安ければ1000円ちょっとで買えるのに誰が買うんだと思ってたのですが、まさか自分がその一人だったとは思いもよりませんでした笑。
風忍作品は大分集まってきましたので、この本が届いたら風忍特集を組みたいと思っています(誰に需要があるのか)。
さて、今回は先週に引き続き「漫画ヒロインに恋をして。」の2回目です。
先週はつげ義春「もっきり屋の少女」から「コバヤシチヨジ」の魅力をつらつらと書きましたが、今回は諸星大二郎「赤いくちびる」から「月島令子」を取り上げさせていただきます。
まずはあらすじから簡単にご紹介いたしましょう。
月島令子は成績優秀だが控えめな性格な中学生だった。
ある日、不良グループたちに目をつけられてしまい、放課後呼び出されてしまうのだが、その日を境に彼女は大きく変わってしまったのだ。登校してきた彼女は今までのおさげからパーマをあて、唇には真っ赤な口紅がさしてあった。教師から口紅について咎められても、堂々とした彼女の態度に驚いたのか、教師は震えて身を屈めてしまったのだ。
それから学校内で奇妙な事件が発生するようになった。彼女の周りには常に男たちがたむろするようになり、彼女もまるで女王のように振る舞っていた。しかし彼女に反抗する生徒や咎めた教師が不審な死を迎えることになる。
そこに現れたのが学会の異端児、妖怪ハンターこと稗田礼二。近くの古寺の調査を行っていた所、この奇っ怪な事件に出くわし招待を突き詰めることになるのだった。
地味なあの子が夏休み後初めての投稿日に垢抜けた・・・そんなシチュエーションはよく漫画やアニメで使われてきました。諸星大二郎はそんなシチュエーションを恐ろしいものへと昇華してしまったのでは無いでしょうか。
口紅をさした令子は今までとは真反対の印象を抱きます。垢抜けた彼女とセーラー服が不釣り合いで、違和感というか妙なコスプレ感というか、エロさというものを感じました。
前回の記事でも「少女から成熟した女性への過渡期」の違和感とそのエロチシズムについて書きましたが、今回もそれと同じ魅力が月島玲子にはあると思います。
しかし「もっきり屋の少女」ではそのエロチシズムを「現実」として描き、「紅い花」では「変化・成長」として描いています。そして「赤いくちびる」では諸星は「恐怖」として描いているのが特筆すべき点ではないでしょうか。
地味な少女が突然、魅力的な女性へと変貌し、男性たちをたぶらかしては意のままに操ってしまう。妖怪ハンターという作品性からそれは怪異によるものだったと締めくくられていますが、はたしてそこに彼女の意思は介在していないでしょうか。独白のシーンでは「ペルソナ(仮面)を被っていたが」というセリフを吐いている所からも、彼女に内側には元々そういった欲望があり、そこをつけ入れたれたという事なのでしょう。
また、「口紅」というのがポイントとなっています。そもそも「口」とはエロチシズムの対象なのです。フロイトの精神分析学では生後18ヶ月までは母親の乳首を吸う行為や指しゃぶりという行為は口を刺激することで快感を得ていると分析しています。「口」とは人間が最も初めに得る性的な興奮のひとつなのです。
ミュージカル映画「ロッキー・ホラー・ショー」のオープニングシーンでは真っ赤な唇が舌なめずりをしながら歌うシーンが延々と流れます。これも口をエロスの象徴として使用しているいい例です。
そんなエロチシズムあふれる部位に「紅(赤)」を指すという事は、色彩心理学の観点からも「情熱」や「興奮」、そして「攻撃性」など性に結びつき、より一層エロチシズムを掻き立てるのです。
そこに「恐怖」というスパイスを振りかけることによって、読者に大きな心理的ショックを与えることに成功しているのです。
分析すればするほど諸星大二郎の凄さに惚れ惚れしてしまいますね。
途中、口のエロチシズムについて熱くなってしまいましたが、いかがだったでしょうか。今後も私が気に入ったヒロインについてご紹介いただければと思います。
それではまた次回をお楽しみにお待ち下さい。
店主さしみ