新連載【漫画ヒロインに恋をして。】#1「コバヤシ チヨジ」

皆さんこんにちは。
店主のさしみです。

梅雨です。雨が続くと棚の本たちも湿気帯びてきますね。
しかし梅雨と言っても「しとしと」した雨ではなく、大雨による災害が発生していて風情も糞もありゃしない。

一昨年、関東に大きな被害をもたらした台風19号では、川の近くにある実家の母親から「あんたの本はどうしようも出来ない」というLINEが入るほど危険な状態だったのをはっきりと覚えています。

梅雨が開けてもゲリラ豪雨に台風と、考えると不安ではありますが気持ちを切り替えて今回は新しい企画を取り上げていこうと思います。

「漫画ヒロインに恋をして。」とちょっと気取ったタイトルにしてみましたが、要は私が好きな漫画キャラクターの魅力について語っていくという内容です。

この企画は以前から温めておりまして、時折EXCELに気になったヒロインを書き出していたのですが、現時点で70人を超えたこともありましたので記事にしようと思い立ちました。

連載第一回目に誰を取り上げようかとかなり悩んだのですが、つげ義春「もっきり屋の少女」から「コバヤシ チヨジ」を選んでみました。

つげ義春「紅い花」小学館文庫刊

まずは「コバヤシ チヨジ」が登場する「もっきり屋の少女」のあらすじです。

小さな集落で出会った少女。おかっぱ頭に着物姿で、年は15かそこいら。まだ顔に幼さが残っている。この地方へ釣りに来た青年は少女に居酒屋の場所を聞くと、少女は「もっきり屋」を勧めた。

さっそく「もっきり屋」を訪れると先ほどの少女がいる。彼女がこの店を切り盛りしているそうだ。彼女に興味を持ち身の上を聞いたりして酒は進んでいく。

すると彼女は自ら胸元へ青年の手を誘導する。奥手なのか青年はそれを拒否すると、彼女は「ク」のつく物が欲しいと話し始めた。青年は「櫛」や「クチビル」など酔った頭で思案するがどれも違っていた。彼女は「靴」が欲しいと語った。それも赤い靴を。そんな話をしていると青年は本格的に酩酊しまい、奥の部屋で休むことになった。

目が覚めると既に日は落ちていて店からは村の若い男の声、-というより掛け声が聞こえてくる。そっと隙間から覗くと男の一人がチヨジの胸にいたずらをしていた。どうやら5分間にわたって胸をいじっても気をやらなければ靴を買ってくれるという賭け事をしているようだ。

「それッ頑張れチヨジ!ドンドン!頑張れチヨジ!」

男たちが囃し立てる「頑張れチヨジ!」という掛け声が耳に残る。結局、その賭けはチヨジの負けとなってしまった。青年は彼女へ別れを告げ店を出ていく事にした。

そして青年は心の底から「頑張れチヨジ!」と呟きながらもっきり屋を後にしていったー

時代背景は昭和30年代でしょうか、貧しさも現代とは比較にならない程です。チヨジは幼いころ父親に1銭5厘で売られたと語っていました。売られた時代が戦前としても昭和11年の物価指数から現代の価値に換算すると1銭5厘は31円ほどになりますから(人身売買の善悪は置いておいて)安すぎる気がします。青年も「1銭5厘とは安かったね」と言ってることからも当時の感覚でもそういう事だったのでしょう。それに対してチヨジは「私は惨めな少女です」と返します笑。

方言ヒロインとしてもすごく好き

青年が彼女に興味を持ったのは藪から棒な方言との事ですが、私も方言を使う女性がタイプで特に関西弁、いやもっというと京言葉が好きなので気持ちは良くわかるのです笑。

タイトルの「もっきり」を調べると立ち飲みや角打ちの事を東北地方でそう呼ぶそうです。つげ義春の作品を読んでると東北訛りも悪くないと思ってきますね。

作中でもチヨジは美しいと言われていますが、つげ義春が描く少女は美しさの中に妙な艶を感じます。それは「紅い花」に登場する「キクチサヨコ」や「沼」の少女も同じです。どの少女もあどけなさが残るものの、ぱっちりとした大きい目と長いまつ毛が無垢な少女と成熟した女性との合間にある奇妙な美しさを醸し出しているのでしょうか。

特にチヨジはまだ幼さが残るものの、生活の為に居酒屋を切り盛りし、時には男性の相手をするという境遇がまた印象的です。都会に住む青年はそんなチヨジを拒否してしまいますが、集落に住んでいる男たちはそんな事はお構いなく、むしろ無垢なチヨジを騙して思うがままにもてあそびます。男たちが囃し立てる「頑張れチヨジ!」という掛け声は妙に耳に残ります。

手慣れた感じがまた辛い

この作品を読んでいるとホステスの様な事をしている(せざるを得ない)彼女の一面と、赤い靴が欲しいというあどけない一面のギャップにとても胸が締め付けられます。しかし生活の為にはそれをやめさせる事はできないし、彼女もそれが悪いとは思っていないかもしれない。青年は複雑な気持ち抱きながら、もっきり屋を後することしか出来なかったのかもしれません。そして青年は男たちが使っていた「頑張れチヨジ」という掛け声を言いながら去っていきますが、これは男たちとは正反対の意味として使っているのが分かります。

チヨジ達と青年との温度感をとても感じる名シーン

私もその青年と気持ちを重ね合わせてついつい「頑張れチヨジ」と口ずさんでしまいそうになります。

これから彼女はどういう人生を送り、どう年老いて、どう死んでいくのか。とても気になって仕方ありません。

もし自分がチヨジと出会ったらどんな事を話し、どんな行動をするのか。時々考えたりするのですが未だに答えが出ていません。答えを求めてチヨジを探しに今すぐにでも旅に出たくなります笑。

という事で、第一回目の恋したヒロインとして「コバヤシ チヨジ」を紹介しましたが、皆さんはいかがだったでしょうか。つげ義春のヒロインはどれも魅力的なので、今後も登場するかと思います笑。

私とは別の魅力に気付いた方がいらっしゃったら是非コメントやスペースで教えて頂けると嬉しいです。

それではまた次回をお楽しみお待ちください。

店主さしみ

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