【書籍紹介】#5-1 上村一夫×岡崎英生「悪の華」前編

みなさんこんにちは

店主のさしみです。

みなさんは「悪の華」というタイトルを聞いて何を思い浮かべますか?  

シャルル・ボードレールの「悪の華」ですか?押見修造の「惡の華」ですか?それとも、柳沢みきおの「悪の華」でしょうか?

私は断然、今回紹介する上村一夫と岡崎英生の「悪の華」ですね。

上村一夫×岡崎英生「悪の華」1980年7月けいせい出版刊

今回は前後編に分けてお話します。前編では作者のプロフィールと「悪の華」の内容についてお話し、後半ではとある漫画作品との共通点について紹介します!

それでは先ず作者のプロフィールを紹介しましょう。

原作:岡崎英生

1943年山形県出身、漫画原作者以外にも編集者やフリーライターとして活躍しています。主に上村一夫とタッグを組んで作品を発表していますが、ふくしま政美にも原作を提供しているのも特筆すべき点ですね。ふくしま政美についてはいつか取り上げさせていただきます。上村一夫とは本作の「悪の華」以外に「夢師アリス」や「しなの川」などを発表しています。

作画:上村一夫

1940年神奈川県出身、漫画家、イラストレータとして活躍。60年代から70年代にかけて劇画ブームをけん引した一人です。代表作は「同棲時代」と「修羅雪姫」で、前者はドラマ化され世間一般に「同棲」ブームを起こしました。後者はクエンティン・タランティーノ監督作品「Kill Bill」でもいくつかのシーンでオマージュされています。残念ながら1987年に他界されましたが、現在でも過去の作品が出版されたり個展が開かれたりと海外を含めて根強い人気があります。

つづいて、あらすじがこちらです。

あらすじ

室町時代より続く「黒髪流華道」の第17代目家元「花矢木蘭之助」は金と権力にモノを言わせ、財政界を裏から牛耳っていた。蘭之介は全国に展開された「黒髪流いけばな教室」の門下生から美貌を備えた女性たちを次々と誘拐しては、監禁や強姦、果ては退屈しのぎに殺してしまうなど悪逆非道の限りを繰り返していた。その数なんと834人!花のように摘み取られた女性たちは蘭之介によって悲しく散っていくのだった。

そんな中、次の標的にされたのは日本橋の商社に勤める「川端小百合」であった。彼女は結婚を控え、新婚生活に花を添えたいという想いから「黒髪流いけばな教室」に通っていた。彼女は教室の先生の思惑に騙され、蘭之介の前へと誘拐されてしまう。そして蘭之介の毒牙にかかってしまうのだった・・・

自身を「猟奇の帝王」と称しているほど残忍で自己中心的な蘭之介は、殺した女性の血で満たされた風呂で湯浴みをしたり、女性器へ薔薇の花を生けたり生きたまま犬へ食わせたりと筆舌にしがたい行為を繰り返しています。しかも今まで殺した女性たちの女性器をホルマリン漬けにしてコレクションをしているという、流石「猟奇の帝王」ですね、川崎ゆきおの「猟奇王」とは全く違うテイストです笑

血で満たされた風呂に入る蘭之介。

そんな事を繰り返しているといつかはバチがあたるもので、蘭之介は逮捕され裁判を受けることになるのですが、彼の権力をもってすれば総理大臣を動かすこともたやすく、国民からの注目を逸らすために、なんと近隣諸国への戦争を企てるのです。蘭之介ならネットで炎上しても問題なさそうですね笑。

そんな蘭之介の前へ連れてこられたのが川端小百合。19歳の彼女が蘭之介の毒牙にかかってしまい、なんと2か月間に渡ってセックスをさせられることになります。食事は蘭之介の体液のみ。なんてすばらs…いいえ、なんて非人道的な行為なのでしょうか。小百合は2か月間に渡ったセックスによって家元夫人の地位を得ることになります。しかし、それは復讐の為だったのです。

続いて本作の中でも店主さしみが気に入ったシーンを紹介していきます。

その1:犬妻記

蘭之介には本妻である「茜」と娘の「沙羅」、息子の「不比等」がいました。しかし小百合が家元夫人の地位に就いたことによって茜はその地位から降ろされてしまいます。茜は蘭之介にしがみついて懇願しますが、それは許されませんでした。結果、犬として蘭之介の側にいることを願い、それを許されることになるのです。子供たちの前で犬になるなんて彼女の執念はすごいものです。

犬になっても側に居たいという健気?な心

茜は財閥令嬢で、家元夫人とい地位より歓楽と享楽に明け暮れていた。しかし今はただの犬。家に上げてもらえるわけでもなく、庭で過ごしています。ある雨の日、そんな姿になってしまった母をみかねた息子が母の元へと駆け寄り傘を差しだします。かつて女王として君臨していた茜の恨みが爆発し、短刀で自らの女陰(ほと)を突き、さらには切り取って蘭之介へ差し出すのです。この迫力たるや凄まじ、ただただ圧巻の一言です!

しかし、蘭之介はそれを受け取らず茜は絶命してしまのでした。息子は母の最期を見て何を思い、何を感じたのでしょうか。それは後ほど紹介します。

女陰(ほと)を切り取り、蘭之介へ手渡そうとする鬼気迫るシーン

その2:花の輪廻

小百合には「原 洋一」という婚約者がいました。彼は東洋新聞社の記者をしていたのです。小百合は結婚を前に蘭之介によって拉致されてしまいました。しかし世間では失踪として扱われているものの記者の勘か、独自に取材を続け、花矢木家までたどり着くことに成功します。洋一は庭師として屋敷へ潜入、小百合と落ち合う事が出来ました。しかし蘭之介はすべて知っていたのです、そして彼は蘭之介の手によって恐ろしい世界へと突き落とされてしまうことになるのです。

すっかりと家元夫人として開花してしまった小百合に誘惑されるままセックスする洋一の前に突如、蘭之介が現れ茜によって肛門へ張型を挿入されてしまいます。その快感に彼は魅惑で背徳の世界の扉が開いてしまったのです。

蘭之介の手によって女装に目覚めてしまった洋一。彼は葛藤する日々を過ごし精神は破滅寸前です。背徳の世界で彼女と生きるためには。小百合が提案したのは彼女が男になり、女性となった洋一を抱くという事でした。これもまた蘭之介の思惑の通りだったのですが、かつて婚約者同士だった彼らは性を入れ替えたのです。彼が常識と欲望の葛藤の中、堕ちていく様は非常にリアルかつ緻密に描かれており、恐ろしくとも何故か読み入ってしまう不思議な魅力があります。もしかしてそういう願望があるのかも・・・?

魅惑の世界へのいざないに葛藤する洋一。わかるぞその気持ち

そして洋一は女性として生きていく事になりました。しかしある日、女性ものの靴を買っている所を母親に見つかってしまい、彼は自殺をしてしまうのです。

訃報を聞き、悲しみに暮れる小百合。そんな小百合に対して蘭之介は彼の棺の上で犯します。かつて愛し合った男の亡骸の上で犯される屈辱と悲しみの中、彼女はまた新しい快楽に目覚めたのでした。背徳に背徳を重ねてどんどん堕ちていく様は同情を誘いますが、同時に欲情も誘うのです。この作品の魅力はこの点にあるのだと思います。

その3:悪魔の子供たち

さて続いて小百合を誘拐した「本庄菊野」についてお話ししましょう。

本庄菊野は黒髪流華道の師範であり、黒髪流いけばな教室の先生をしています。あらすじでも書きましたが小百合は菊野の教室に通う門下生でした。蘭之介に小百合を献上するため菊野はカステラに媚薬を混ぜ、張型で処女を奪い、誘拐してしまいます。蘭之介は小百合を一目で見初め、菊野へ褒美を取らせるのです。

菊野が要求した褒美は「蘭之介からの一夜の寵愛」

子供を宿した菊野の野望と欲望は果てしない

その一夜以降しばらく姿を見せなかった菊野は、突然蘭之介の前に現れます。胸には赤子を抱きながら。菊野はあの一夜で蘭之介から授かった子供だと主張するのです。その時、蘭之介は茜が生んだ子供たちには興味を示さず、小百合には未だ子供が出来ていなかったのです。それは菊野の計画でした。激しく狼狽する蘭之介にすがりつく菊野、目も背けたくなるシーンが続きます。そんな言い合いの中、外から悲鳴が聞こえます。庭へ見に行くとそこには沙羅と不比等に虐待された挙句、惨殺された赤ん坊の姿が。茜に見せた優しさの影もなく蘭之介の花矢木家の血に目覚め始めた子供たちの表情は背筋をゾっとさせました汗。

菊野の子供を惨殺した沙羅と不比等。彼らの中にも確実に蘭之介の血が流れてる

とある日、菊野はデパートの屋上にいました。腕には無残に殺されてしまった赤ん坊の骨壺を抱いて。野次馬からの心無いヤジももろともせず彼女は身を投げたのです。実は骨壺には赤ん坊の骨と共に花矢木家が門下生を暗殺者として派遣し暗躍してきた内容を暴露する文章や、いけばな教室の裏で経営していた毒草、薬草園の所在、そしてそれから製造される麻薬や媚薬の製造方法の一切を。女性から恨みを買うべきではないですねホント。

それがきっけけであらゆるスキャンダルが発覚した蘭之介はマスコミや警察の手にかかる前に自害を選んだのです。

蘭之介は門下生を屋敷から避難させます。それは日本中に蘭之介の悪の華を咲かせるために。淫花帝国と言われていた花矢木家は終焉を迎えるのと同時に新たな形で始まるのでした。

屋敷に火をつけ、最期の酒を飲む蘭之介と小百合。最後の願いと燃え盛る屋敷で小百合を抱こうとする蘭之介。死の恐怖におびえる小百合を緊縛します。小百合は復讐から蘭之介の死をこの目に収めたかったのですが、蘭之介はその場を去っていき、小百合は火に飲まれてゆくのです。そして蘭之介は火に包まれながら自らの腹を切り散っていくのでした。

背徳、恥辱、凌辱、権力…いつの時代も人間が人間である限り無くならない欲望の数々。それを凝縮したこの作品は恐ろしくもエロチックで美しいものとなっています。上村一夫、岡崎英生コンビ作品でも随一の傑作です!

では、後半をお楽しみにお待ちください

店主さしみ

おすすめの記事