【書籍紹介#2】澤田賢二「鍍乱綺羅威挫婀」

みなさんこんにちは、店主さしみです。

私はある時期、「自分の想像を超える表現や発想を提供してくれる」マンガを求めていた時期がありました。

それは大友克洋の「AKIRA」をはじめ、小池桂一の「ウルトラヘヴン」や伊藤潤二の「うずまき」、果てはひさうちみちおや宮谷一彦などなど枚挙に暇がありません。

そんな中、今回紹介するマンガはおそらく1本のペンから描かれた作品の中で最も濃密でエネルギッシュな作品でしょう。それが澤田賢二「鍍乱綺羅威挫婀(とらんきらいざあ)」です。

「鍍乱綺羅威挫婀」澤田賢二 著/講談社(アフタヌーンKC)刊 1993年初版

主人公は川村幸は目つき鋭く喧嘩っ早い。そしてトルエンを吸ってラリパッパな何処にでもいるJCです。生きる意味や仲間との絆を知らずに過ごしてきた彼女はトルエンを吸ってゴキブリさんと会話に興じます。そんな敵だらけの彼女はある日、襲撃されてしまい入院してしまいます。そこで出会った「弥生」が彼女の人生を大きく動かし始めるのです。

弥生は伝説のレディースチーム「鍍乱綺羅威挫婀」のアタマをはっていたものの、病気のため死んでしまいますが、死に際に単車と特攻服を幸に託すのでした。

そして幸は鍍乱綺羅威挫婀を通して多くの人間と衝突や喧嘩をしながら仲間の絆を知っていくのです。

あらすじだけ読んでいると、よくあるヤンキーモノの作品に思われるでしょう。

この作品の魅力は物語ではなく表現力なのです。

第一話の扉絵を見ていただければわかるかと思いますが、スクリーントーンを全く使わず、緻密な網掛けによって描かれていますがその執念たるや。初めて読んだときは鳥肌が立ったものです。

解像度が低いと網掛けと認識が出来ないほど緻密

網掛け表現は扉絵だけにとどまらず全編に渡って描かれており、スクリーントーンを一切使っていません。さらによく見てみるとベタも使っておらじ、すべて網掛けによって影の濃淡を表現しているのです!

3コマ目の背景をよく見てみるとベタではなく網掛けだ

連載されていた80~90年代はシンナーやトルエンなどの有機溶剤を吸ってトリップするのが一部で流行し、社会問題となっていました。主人公である幸もトルエンを吸ってラリってるシーンが描かれていますが、トリップシーンも網掛けや緻密な描画によって描かれています。ウルトラヘヴンでもLSDのようなドラッグによってトリップするシーンを独特な表現で描いていますが、それとはまた違う趣がありますよね。なんとなく和のテイストというか仏教ぽい。使用する薬によって幻覚の質も変わってくるのでしょうか笑

ウルトラヘヴンと違ってどことなく「和」を感じるトリップシーン

そしてヤンキー漫画ですから喧嘩のシーンも見張るものがあります。喧嘩シーンでは網掛けはほとんど使用せず、スピード線を多用して勢いのあるシーンになっています。よく観察してみると人物画も輪郭線を使用せずスピード線で描かれてますね。それが妙に独特で強烈な印象を残すシーンにつながっていることが分かります。

この見開きだけでどのくらい時間がかかったんだろう…

全2巻という短い作品ですが他の漫画にはない唯一無二の魅力を持った作品となっています。

作者である澤田賢二先生はこの「鍍乱綺羅威挫婀」以降、作品を描かれておらず「鍍乱綺羅威挫婀」自体も絶版のままで読むことが出来るチャンスは本当に少ないでしょう。

もし見かけたら、値段を気にせずに手に入れる事をオススメします。

是非、手に取っていただき漫画表現の極地を味わってください。

では、また次回。

店主さしみ

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